BSEいわゆる狂牛病の日本での発生は、消費者や酪農家・関係事業者をパニックに落としいれました。私は「ついにおそれていたことが起こったか」と強く感じたのを覚えています。
日本でのBSEの発生は、おそらく汚染された肉骨粉を飼料として牛に与えたのが原因であろうと思われますが、その感染ルートはいまだに明らかになっていません。
BSEは人に感染して致死的な神経難病である新型クロイツフェルト・ヤコブ病の原因となると考えられています。
原因となる病原体はプリオンといわれるタンパク質で、中枢神経を冒し人格を奪い、意識そのものまで破壊する。根本的治療法や予防法もまだ見つかっていないというので、いまだに人々に多大な不安を与えています。
日本でこれからどれだけのBSEが発生するのか、人への感染はないのか、その他の動物への感染はどうなのか「敵が打ち負かされていない」だけに、不安は消えてしまいそうにありません。
しかし、「パニックに陥らないためには、自分の耳に届く不安に満ちた情報を理性的に判断する必要がある」とこの本の著者はいいます。
実は、この「敵」が姿を現したのは3世紀も前のことで、この本では、以来、この姿なき「敵」の正体を追跡する人々の物語が推理小説のように描かれます。
羊のスクレイピーに直面した獣医師や、クロイツフェルト・ヤコブをはじめとする神経病学者たち、クールーを研究したガイジュセックやプリオンを発見したプリシナー、何と多くの人々がこの追跡をおこなって成果を上げてきたことか。
読みながら、多くの犠牲が生じ、恐怖が広がりながらも、次第に「敵」の正体が暴かれていくことに、私たちは近い未来で「敵を打ち負かす」希望をいだくことができます。
BSE追及の歴史をつうじて、学問的研究がどのように発展をとげていくのか、を知ることのできる科学読み物でもあります。
著者は1940年生まれ、フランス・パスツール研究所元所長。
■出版社:紀伊国屋書店