『フラミンゴ・ボーイ』 マイケル・モーパーゴ著 杉田七重訳 小学館刊

高校の試験を終えて自由な旅に出たイギリス人の少年ヴィンセント。
行き先は、ヴィンセント・ヴァン・ゴッホが、ボートのある風景を描き、祖父母がその絵を少年にプレゼントしてくれた南フランスのカマルグの海岸。

フラミンゴ・ボーイ

嵐に迷い倒れてしまったヴィンセントは、そこで暮らすにロマ(蔑称としてはジプシー)の女性と、言葉の話せない中年男性とに助けられて、しばらく過ごすことになります。
カマルグ海岸は、ヨーロッパで唯一野生のフラミンゴが渡来する場所。
この地で育ち中年となった男性ロレンゾは、フラミンゴたちを保護し、交流し、同化しながら過ごしており、女性は受け継いだ小さな農場を営んでいます。
なぜ、障害のあるロレンゾと、同い年のロマの女性ケジアが、こうやってここにいるのか、ケジアは療養を続けるヴィンセント少年に語り出します。

ケジアはロマの家族とともに、祭りのメリーゴーラウンドを移動させながら暮らしていた。
エーグ=モルトの町で、差別され、いじめられて学校に行かなくなったケジアは、メリーゴーラウンドのフラミンゴに夢中になったロレンゾと出会い、ロレンゾの母・ナンシーに勉強を教わることになります。フラミンゴが飛び交う自然豊かなナンシーの農場で、フラミンゴ・ボーイ、ロレンゾと過ごす楽しい日々。
しかしある日、町にはドイツ兵がやってきます。
ビシー政権下の南フランスの小さな町もドイツ支配下におかれたのでした。
占領下の暮らしも厳しさを増していき、不慮の事故でメリーゴーラウンドを破壊されたケジアの両親は憔悴しますが、いつかメリーゴーラウンドが再び回せる平和な日々がやってくることを信じて、修理に励むことに。
それを密かに応援するドイツ兵がありました。
フランスへやって来る前は教師で、子どもたちを救うことを願うドイツ兵カポラルは、メリーゴーラウンド用の部材をこっそり提供し、ロマへの迫害の度が増してケジアの両親が収容所に送られても、その救出を手配します。
やがて、ドイツ軍は撤退し、アメリカ軍がやってきます。解放された両親と再会するケジア。ロレンゾたち家族との日々が戻り、町ではメリーゴーラウンドが再び廻りはじめ、いつもの「アビニョンの橋の上で」の音楽が流れます。

こうしてケジアの話は終わりますが、ヴィンセント少年はケジアやロレンゾと一緒に、今は手放したメリーゴーラウンドを見にエーグ=モルトの町へ出かけると、そこにやってきた元ドイツ兵・カポラルと再会します。その手には、かつてケジアがお守りにと手渡した聖女サラの肖像が握られていました。

フラミンゴが舞い飛ぶ風景の中で、障害を持つ少年と、少数民族ロマの少女の友情。ナチスドイツの占領と迫害。その中で、子どもの幸せを願うドイツ兵との交流の物語は、いわれなき差別や迫害、戦争の無意味さとともに、子どもへの愛情と希望がどれほど価値あるものかを浮かび上がらせています。
登場するメリーゴーラウンドという遊具は、フランスが発祥なのだとか。
かつて私も、ヨーロッパの街中の秋の小さな広場で、移動式のメリーゴーラウンドが廻って、子どもたちに喜ばれている風景を目にしたことがあります。それは、平和と復興の象徴でもあります。

イギリス児童文学界を代表する作家・マイケル・モーパーゴによる本書は、2020年第66回青少年読書感想文全国コンクール高等学校の部課題図書となりました。
ぜひ多くの高校生に読んでほしい作品です。

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