一昨年でしたか、産科の医師不足問題で、ある病院を訪れて院長先生とお話ししていたとき、院長先生の下に一通のメールが届いていました。現在はアメリカの病院に勤務する北九州出身の医師からで「日本に帰って医療機関に勤めたい。私の職歴・研究歴は以下のとおり」など北九州で働きたいとのオファーでした。
私は「帰ってきてくれるのなら、アメリカからでも優秀なお医者さんを確保できればどんなに良いだろう」と思いました。同時に、その場合「医師の力量って、どうやって量ることができるのだろう」と一抹の不安も覚えたものでした。
さて、この物語の舞台は「東城大学医学部付属病院」。同病院では心臓移植の代替え手術である「バチスタ手術」の権威・桐生恭一医師をアメリカの専門病院から招聘して、成功率100%を誇るチーム・バチスタが始動しました。ところが3例連続して術中死が発生。危機感を抱いた病院長の高階は、神経内科「愚痴外来」担当の万年講師・田口公平を内部調査の責任者に任命します。
田口医師はさっそく調査を開始、しかし調査は難航。そこで田口医師の助っ人として登場するのが、無遠慮きわまりないロジカルモンスター・白鳥圭輔、これが厚生労働省の技官というのだから傑作です。白鳥技官は、その強烈なキャラで周囲をかく乱しつつ真相に迫ります。
鳴り物入りでアメリカから招聘されたバチスタ手術の権威・桐生医師は、実はもはや手術をしてはいけない体だった。それを必死に支える義弟。事件は、その隙間を巧妙に狙ったある人物による殺人だった。
いずれも個性的なキャラクターを持つ人物が次々に登場し、ある時はコミカルなタッチで病院内の人間模様を描きながら、またある時は、著者が現役の勤務医だけに、リアルな手術シーンなどを織り交ぜながら、殺人事件の究明が進んでいきます。
果たしてその犯人は? この後は、ぜひ本をお読み下さいね。
我々の地域の病院にも、特にがん治療の先進化を担う医師など、多くの優秀な医師が増えてほしいものですが、こんな事件だけはおきて欲しくないですね。
もちろんこれはフィクション。この作品は2005年の「このミステリーがすごい大賞」を受賞した作品です。現在、文庫本となって発売されているほか(予想通り?)映画化が進められています。強烈キャラの白鳥圭輔役は阿部寛さん、田口公平は女性医師になって竹内結子さんがつとめるのだとか、さてどんな映画になるのでしょう。
宝島社・刊