『愛しの座敷わらし』

File0006.jpg座敷わらしは東北地方の民家に住むというこどもの妖精。宮澤賢治の作品や柳田国男の『遠野物語』などにも出てきますが、悪いことをするのではなく、座敷わらしの住む家は繁栄し、いなくなると没落するのだとか。その座敷わらしが現代の家族の前に現れたとしたら…?
主人公の高橋晃一は、どうやら左遷されたらしい。この際、心が離れはじめた妻の不満をかわしながら、あこがれの田舎暮らしを決行、東北の古民家に住むことになりました。
妻・史子と中学生の梓美、小学生の智也、高齢の母・澄代、犬のクッキーも一緒。これまでは仕事人間で、家族とは会話もなかった。これからは出世など気にせずに家族と生きていこう、と決めたはずでしたが、現実はそう甘いものではなさそう。 
晃一は相変わらず会社からは遅く帰るし、妻の不満もつのるばかり、思春期の梓美は死んでも良いほど孤独だし、高齢の澄代は認知症かもしれない。ただ、智也だけが元気に遊んでいる時に、家の中で4、5才ほどの小さな男の子と出会います。
けん玉で無邪気に遊ぶ男の子は、バアバには見えるけど、お姉ちゃんや他の家族にはいつもは見えないらしい。ところが、遊んでいるうちに男の子は、梓美や史子の鏡に写ったりして大騒動に。晃一とは会話もなかった梓美は、自分の頭がおかしくなったと思いこんだ史子を支えるために奇跡のタッグマッチ。自分がしっかりしなければと自覚した祖母・澄代は、智也と一緒に毅然として座敷わらしの存在を家族に告げて・・。
気がついてみれば、座敷わらしのおかげで高橋一家は次第に家族の絆をとりもどしていたのでした。やはり座敷わらしは幸せをもたらす妖精?

この作品は、すでに映画化が決定し、来年の五月連休に公開予定だそうです。高橋晃一役は水谷豊さんが演じることになっているそうです。本書の解説に水谷さんは「読み終わって僕が感じたものは、まるで清々しい風だった。幸せとはこういうことなのか・・・と思わせるような」と書いています。                       
著者の荻原浩さんには、幼稚園の子どもたちと高齢者が「共闘」して横暴な高齢者施設経営者らと闘うという奇想天外な作品『ひまわり事件』でも楽しませていただきました。団塊の世代の老いの問題や若年性認知症問題など社会的な課題もさりげなく盛り込まれた作品で、未読の方は併せてお奨めいたします。
ところで、作品に登場する座敷わらしは幼児であり、かつて不条理にも家族と共に生きることのできなかった子どもの霊が現れたものだと語られます。あの東日本大震災でも、きっと数多くの幼い子どもたちの不条理な死があったことでしょう。願わくば彼らの全てが座敷わらしとなって、高橋一家のような家族とともに幸せを得られることを祈らずにはいられません。

荻原浩・著  朝日文庫(上・下)刊 

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