新しい年が明けてお屠蘇でお祝いをされた方も多いと思います。そこで今回はお酒の本のご紹介を。
この本のもともとの出典である『世界の名酒事典』が世に出たのは今から30年前だとか。次第に円高がすすみ、世界からいろいろな種類のお酒が輸入され始めた時期にあたります。飲んで酔うことに重きが置かれた時代から、飲み手の世代交代がすすんで、人々がお酒を飲むことを楽しみとする時代へ社会が変化したことの現れでもありました。
でもそんなことはともかく、この本に登場する「飲み手」たちの飲み方が楽しいのです。特に文士の皆さん方のはおもしろい。
命をかけて飲む迫力の開高健、「酒の名前は相撲のしこ名と感覚が近い」と語る丸谷才一、戦前の未決房で砂糖をなめ続け戦後は甘いトカイワインを飲み続けた埴谷雄高、ともに「小説を書くには洋酒の方が多彩でイメージをふくらますことができる」と語る阿刀田高と北方謙三、「酒は飢饉や戦争と反対の極にある。いうなれば豊かさと平和のシンボルにほかならない」と説く陳舜臣。確かになあ、アメリカを中心とする国際政治の失策が背景にあるとはいえ、最近のイスラム圏での激しい宗教対立を見ると、そこに酒があったらこれほどの対立があったろうかなんて考えてしまいます。
日本の知識人は「酒の文化に無関心だった」と指摘もありますが、5章では「酒の本」の世界の紹介や「酒の戦後史」についても掲載され、酒と文化を探る真面目な試みもなされています。
グラスを持つ開高健・吉行淳之介・遠藤周作の各氏を描いた表紙も楽しい和田誠さんの装幀。
さて、読んでいた私も、年末に仕入れた安い赤ワインの栓でも開けたい気分になってきました。(講談社・刊)