マーブル・アーチの風

20otona.jpg デパートのクリスマス商戦も真っ盛りのことだし、今回はコニー・ウィリスの短編集から近未来のクリスマスを楽しんでいただきましょう。
 まず『ニュース・レター』
 アメリカではクリスマスに家族などの近況を知らせる「ニュースレター」を交わすのがかなりポピュラーな習慣のようです。
 舞台はアメリカのデンバー。11月の感謝祭の夜、ニュースレターのネタを何にしようかと主人公のナンがママと話し合っていた時、妹のスーアンが新しい彼氏を連れてきます。
スーアンは「すべての人間の中で、男の趣味が最低」。ところが今度連れてきたのはなぜか「まともな男」だった。
 まわりを見渡すと何かが全ておかしい。いつものクリスマスにはみんなが「不作法で自分勝手で意地悪になる」はず。それなのになぜか、みんないい人になってる!実は、彼らはエイリアンに乗っ取られていたのでした。主人公達の必死の闘いが始まります。
 でも一体なぜ闘うの?失業率は低下し、車上荒らしも減少した、落ちこぼれは学校に戻り、脱獄囚が自首した。マイナスの影響は一切ないのに。
 でも結局、闘いには勝利したようでした。そしていつものクリスマスのように、ショッピングモールには不機嫌な買い物客がごった返し、スーアンにはテロリストの彼氏ができ、抗うつ剤の売れ行きが増加し、ナンは車にひかれそうになって…。街には完璧にノーマルな日々が戻ってきた。(まるで星新一のSF小説のようでしょう?) 
もう一つの『ひいらぎ飾ろう@クリスマス』は、クリスマス飾り付けの外注を請け負う近未来の会社員リニー・チャンを主人公にしたSFコメディ。
 チャンは、高級住宅街に住む女性顧客の自宅でフルカラーのホログラムを出現させて700種類のテーマからあらゆるクリスマスの飾り付けをお客に提案します。「ロミオとジュリエット」「ラスベガス」「宇宙旅行」「東方の三博士」のクリスマスなどなど、ありとあらゆる楽しいテーマのクリスマスが出現。「象は忘れない」(象は共和党のシンボル)など、支持政党に合わせたプランも。「もちろん民主党バージョンもございます」というのには笑えます。
 手の込んだ「お見合い計画」が会社乗っ取りへの猜疑心を生んでドタバタを繰り返したあげくに、クリスマスは「赦しと寛容の時なのだ」と締めくくるのは、やはり西洋社会でのクリスマスの原点を見る思いがします。
 この短編集ではこのほか、時の流れと歴史の記憶をロンドンの地下鉄を舞台に描いた表題作「マーブル・アーチの風」。そして、チャネリングの怪しさを、ニセ科学を攻撃し続けたメンケンをチャネリングで登場させて暴くという手の込んだ仕掛けで描いた「インサイダー疑惑」。
 どれも楽しく、現代SF界を代表する人気作家の魅力を満喫できる作品です。早川書房・刊

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