はせがわくん きらいや

9kids.gif「なあ おばちゃん なんで長谷川くん あんなにめちゃくちゃなんや。」ゆうたら おばちゃんため息をついた。

昭和30年のいわゆる森永ヒ素ミルク事件で死亡した赤ちゃんは120人以上、1万数千人以上の乳児が重い障害や健康被害をうけました。
著者の長谷川集平さんはその被害者の一人。1976年(昭和51年)のデビュー作『はせがわくんきらいや』は、ヒ素ミルクで体をこわした「はせがわくん」をとりまく子どもたちの受け止めと友情を、大胆なタッチと言葉遣いで描き、第3回創作絵本新人賞を受賞しました。当時、私も書店で見て買って来ましたが、強い印象を受けたのを覚えています。

小児の集団健康被害事件は、森永ヒ素ミルク事件にとどまらず、カネミ油症事件、水俣病、イタイイタイ病 、サリドマイド・キノホルム、未熟児網膜症などなど、枚挙にいとまもありません。国民の健康に背をむけた政府や業界の利害とが絡まりあって、多くの犠牲と健康被害をもたらしたことへの反省と教訓を、私たちは忘れるわけにはいきません。

しかしこの絵本は、こうした背景をもちつつも、本人と家族の深い悲しみと憤り、健康被害を受けた長谷川くんへの子どもたちの共感ととまどいを描いて心を打つ作品となっていると思います。

社会派だからと評価されるのではなく、絵本としてのレベルの高さが評価されているのだと思います。
この「はせがわくん きらいや」は、高い評価をうけて登場した後、出版社の倒産などで数度の絶版を経て、2003年に株式会社ブッキングから復刻されました。写真は、初版のすばる書房のもの。復刻版は色が変わっているそうです。(04年1月)

■出版社:すばる書房(当時)

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