「白をつなぐ」

さあ駅伝の季節です。全日本大学・高校・中学駅伝から、年が明けて、実業団駅伝・箱根駅伝、そして都道府県対抗駅伝と、ぞくぞくと大きな大会が続きますね。


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私も箱根駅伝ファンの一人ですが、2年前、シード常連だった母校の中央大学が、まさかのシード落ち。翌年は、シード権復活だと確信した時、最終ランナーが失速して、またもシードを逃す事態に。数々のドラマを生みながら、懸命にタスキをつなごうとする選手たちの姿には、いつも感動させられます。

一月は、郷土の誇りと意地をかけて中学生から高校生、一般の選手がタスキをつなぎ走り抜ける都道府県対抗駅伝大会も楽しみの一つですね。

 

今回取り上げた作品、まはら三桃さんの「白をつなぐ」は、毎年1月に広島市で行われる都道府県対抗男子駅伝(天皇杯)に出場する福岡県代表の物語。

 

1区、いたずらっ子の俊足高校生、澤田瞬太。2区、たすきのトラブルを補欠の斉藤湊選手に救われる中学生、山野海人。3区、失恋の危機に見舞われたスター選手、水島颯。4区、「無心」を会得する歴史好きの高校生、谷山林太郎。5区、ライバルと激走するチャラ男高校生、川原大輝。6区、熱血コーチの進退をかけて走るも、まさかの脱水症状で棄権を余儀なくされる中学生、佐々木和。最終7区、有名チームの付属品とよばれてきて引退を決めた駅伝で、走る喜びを見出した孤高のベテラン社会人ランナー、吉武弘一。

県代表の「赤いたすき」を懸命につなぎながら、各選手たちが感じた「白でつなぐ」ことの意味とは?

選手たちそれぞれのドラマと胸に抱く思いを、まはら三桃さんが、軽快なタッチで描いて行きます。

 

現在、福岡市在住のまはら三桃さんは、スポーツやものづくりなどにひたすら打ち込む若者たちの姿を描いて、人気を博している気鋭の児童文学者。

三浦しおんさんや萩原浩さんを思わせるユーモアあふれる軽快な作品群は、きっと色々な青春の一場面で悩んだり迷ったりしている中学生高校生などの若者たちを励ましてくれることでしょう。

中学生・高校生等むけの良い作品が少ないと言われる昨今、これからも大いに活躍してほしい作家です。

 

ところで、作中の福岡県代表が正月4日からの合宿するのは北九州市の鞘谷陸上競技場。熊沢監督も北九州育ちという設定で、将来が有望な中学生・佐々木和のコーチ、スキンヘッドのこわもて八谷光司は北九州弁丸出しで大声を上げますし、山野海人選手の祖母は、小倉が長崎原爆投下の第一目標だったのだと語ります。

実は、作者のまはらさんご自身が北九州市出身であり、坪田譲治文学賞を受賞した「鉄のしぶきがはねる」をはじめ、多くの作品に北九州市

が登場し、北九州弁が飛び交います。

まはらさんの作品をとおして、多くの若い読者の皆さんが、もっともっと北九州市に親しんでいただければ、私たちにとっても嬉しい限りです。

そのまはら三桃さん、2015年12月19日には北九州市立文学館に「里帰り」されるようです。私も出かけてみようかと思っています。小学館刊。

(2015年11月)

 

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