「一虫息災」とは私の造語。人間どうも「虫」を飼っていた方が元気らしいぞ。
著者の藤田紘一郎先生によれば、日本で回虫などの寄生虫が駆除されてしまった1970年代からアトピー性皮膚炎などのアレルギー病が日本に出現してきた。体内の寄生虫自身がアレルギーを抑える役割を果たしていたのだ。
戦後、世界有数の無菌国家・日本を実現したことが、逆に日本とくに若者を脅かすことになった。
藤田先生は、過去30年以上にわたって世界各地の飲料水についても検査してきた。その結果、世界の大都市で日本人が「生」で飲んでも差し支えない都市はわずかに8都市でしかないことがわかった。
世界では、水道の栓をひねるだけで飲み水を得ることができる国をさがす方がむつかしいのだ。
そんな無菌国家にすむ日本人が海外に出たらどうなる。
おいしいと食べた料理で寄生虫に感染することがある。性行為におよぶとエイズ、肝炎、淋病などヒト由来の感染の危険が大きい。さされた蚊やハエ、寄生虫による病気にかかる可能性もある。熱帯熱マラリアなどは発熱後5日間のうちに治療を始めないと死亡するので、重大な危険を伴う場合がある。
海外に旅行する日本人が急増する中、そんな危険にどう対処したらいいか?その答えをまとめたのがこの本だ。副題には「信じられない海外病のエトセトラ」とある。
藤田先生は旅行好き、食べ物好き、ジャングル好きで、先生自身が「いろいろな病気にかかり、いろいろな事件に巻き込まれたのだ。しかし、僕はちゃんと元気に日本に戻ってきた」(本文から)。
しかも、先生は現在、東京医科歯科大学医学部教授、医学博士。
かつて「笑うカイチュウ」の著書で時の話題をさらい、研究と健康のために自らお腹の中でサナダ虫を飼うという筋金入りの病原微生物研究家なのだ。
その藤田先生の数々の病気や事故についての経験が、おもしろおかしいメディカル・エッセイとして文庫化された。役にたたないはずがあろうか。乞御一読。