さすらいの孤児ラスムス

12kids.jpgかつて岩波少年少女文学全集というシリーズが発刊されており、その中の何冊かは子どもだった私の大切な本だったことは、以前のこの欄でも申し上げたかのではないかと思います。
 その中で、最も印象深く私の思い出に残っている作品の一つが『さすらいの孤児ラスムス』です。
 読み進んだ子どもたちは皆、作品に同化し、主人公の少年ラスムスをはじめ、心やさしい風来坊オスカル、友人のグンナル、ヒョーク先生など、登場人物のそれぞれの個性や美しい風景に誘われながら、スエーデンの田舎を一緒に旅していくことができるでしょう。
「オスカルと一緒に食べるパンやしょっぱいハムはなんておいしそうなんだろう。」「干し草の中ってそんなに気持ちいいのかなあ。」「僕だってやっぱり、お金持ちでもいやな人とは住みたくないや。」
 読み進みながらとても楽しい気分になった当時のことを、私は今でも楽しく思い出します。
旅を続け、事件に巻き込まれながらも最後にたどりついたオスカルの貧しいけれども気持ちの良い家で、奥さんの胸にしっかりとだきしめられたラスムスの幸せなこと。
この作品は子どもにとっての「幸せの要素」をしっかりとたくさん織り込んで、すばらしい読み物になっています。
 作品の中にでてくる「孤児」だとか「浮浪者」だとかの言葉は、最近では使わなくなりましたし、親のない子がもらわれる話という題材はあまり好ましくないとされていると思われますが、この作品が出版されたのは1957年。もう50年近くも前のことです。いたしかたないことでしょう。
 この作品は2003年になって、岩波少年文庫の一つとして改めて刊行されました。年数はたっていても、なお歳月や国境を越えて価値を失わない書物として、年若い人たちに親しんでもらいたいとの意図があるのだと思います。
 もう中年のおじさんである私にとっても大事な「宝物」です。
 リンドグレーンさんは、『名探偵カッレ君』『長くつ下のピッピ』など多くの作品をで世界の子どもたちから愛されながら、2002年に惜しくも亡くなりました。この作品は1958年国際アンデルセン賞の大賞を受けました。
 小学校4・5年生以上。

■出版社:岩波書店

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