私の本棚に古びた岩波少年文庫の一冊がありました。昭和33年9月10日第一刷ですから、もう40年以上も前に発行された「プー横町にたった家」です。
「プー横町にたった家」は、私の家の愛読書でした。私は、それを母から読んでもらい、また自分でも大好きな本の一つとして大切にしてきました。そして、それは今、娘の手元にあります。娘たちも、この本に親しみながら成長したのでした。
イギリスの作家のミルンが、息子のクリストファーロビンのために、ロビンとそのぬいぐるみの動物たちを主人公に、子ども向けの作品として書き下ろしたのが「クマのプーさん」、その続編が「プー横町にたった家」です。
日本では、石井桃子さんの訳で出版され、児童文学書のロングセラーとして今でも愛され続けています。
おっとりのんびりしているプー、小さいコブタ、皮肉屋のイーヨー、跳ねっ返りのトラー、カンガやフクロ、森の仲間たちが繰り広げる世界は、読んであげると小さい幼年の子どもたちにも好評です。
おなかがすいたトラーが、何でも食べられるんだといって、プーの蜂蜜やイーヨーのアザミなどを試してみて、結局、子どもカンガルーの麦芽エキスが一番あっているのを発見するお話などは、今でも鮮やかに私の記憶からよみがえってきます。
また、アーネスト・シェパードの挿絵も「シェパード以外の絵が想像できないほど、その内容に食い込んで」(石井桃子)いる、印象的な絵となっています。
近年では、くまのプーさんというとディズニーのアニメの方が知られていますが、この本の内容とは基本的に質が違うものだとは思います。ディズニーアニメ版のプーさん人気に少々食傷気味だった私は、かつて訪れたロンドンの土産物店で「プークラシック」として、シェパードの挿絵がバッジになっていたのを発見して大変喜んだことがありました。
「プー横町にたった家」は、シェパードの挿絵とともに、これからも小さい子どもたちにもっともっと親しんでもらいたいおすすめの一冊です。
訳者の石井桃子さんは「ノンちゃん雲に乗る」などの作品で知られると同時に、多くの外国児童文学を紹介してきた、児童文学界の大先達です。実は、私の二女の名前も、石井桃子さんにあやかってつけさせていただきました。(これは蛇足。)
■出版社:岩波書店