光男はやせっぽちで小さな男の子。いつもだまってて、くらいかんじ。でも、赤ちゃんのときは、とってもかわいくて、よくわらう子だったんだって。しんじられない。お父さんとお母さんがいないからかな。光男のこと、わらわせてみたいな。
小さい子どもの笑った顔はかわいいですね。顔の全部が口になったみたいに、大きな口をあけて、見ていると体がお日様にてらされたようにあったかくなるお日さま笑い。でも笑わなくなった子はどうやって笑いをとりもどせるのでしょう。
小学生の女の子・よりかの家にひきとられてきた五歳の男の子・光男。お父さんの高校時代の後輩の子どもです。光男の両親は突然の電車事故で死亡、親戚に引き取られましたが冷たくあつかわれ、しゃべらない子になってしまっていました。
よりかと家族は、何とかして光男の心をひらこうとしますが、簡単ではありません。でも、よりかの家族の愛情と豊かな田園地帯の自然につつまれて、次第に心を開きます。
光男の両親の死、あずけられていたの家の犬アカとその死、よりかの家の飼い犬ラック、乱暴で個性的な近所の男の子正二、カエル・ザリガニ・ヒバリ・子犬、生き物たちの命と死をとおして、命のいとおしさ、そして愛情の尊さを描きます。 心を閉ざす子どもたちや、虐待、子どもたちへの愛情、現代の私たちが直面する問題を児童文学としてテーマにしている意欲的な作品でもあります。
「ギャハハ、ギャハハ、ギャハハハ」と、声をたてて、光男はわらって、わらって、わらいつづけていた。顔がまっ赤になって、口がぱくっと顔のはんぶんほどもひらいて、わらう。わらう。わらう。
「お日さま笑いだ!!」よりかはさけんだ。 .....
家のなかに四人の笑いがうずまいて、家もからだをよじってわらっているようだ。 よりかはわらいながら、にじみでてきた涙をふいた。母さんを見ると、母さんも目頭を手でおさえていた。
光男の心を開くのに一役かったラックも、乱暴だけど光男が好きな男の子正二君も、そして両親が死亡する電車の事故も、実はモデルは実在のものです。 ラックは私のうちでかっていた犬ですし、正二君は近所にすんでいた大変個性的な男の子でした。電車は西日本鉄道の大牟田線、我が家は無人の踏み切りのそばで、かつて時々事故も起こり、車の家族がなくなった例も実際にあったのを記憶しています。登場する田園の自然は、まだ豊かだった当時の小郡市一帯・筑後平野の風情を伝えています。
それだけに、私はこの母の作品を大変いとおしいものに思います。
著者の世良絹子は、これまでにいく冊かの児童書を出版しています。日韓の交流を描いた『海に開く道』、幼年対象の『あっちゆきだよヒャータ』『ダンプカーを追いかけろ』、筑後の自然を背景にした長編『光の川』などです。
北九州市の児童文学同人誌「小さい旗」の同人で、すべてこの同人誌に発表したものから作品化されています。詩人の故みずかみかずよさんも同人でした。
世良絹子は、私と同様?人前でしゃべるのはあまり得意なほうではありませんが、その文章は結構、大胆不敵で骨太なところがあります。 子どもや動物、自然を見つめる目も、私はこれらの作品から学びました。
■出版社:ポプラ社