「モンテ・クリスト伯」

14kids.gif 19世紀初めのフランス・マルセイユ。周りの陰謀で監獄シャトーディフに投獄された無垢な青年エドモン・ダンテスが、同じく投獄されているファリア司祭と出会い、あらゆる教養を身につけて14年後に脱獄。モンテ・クリスト伯と名乗って、自分を獄に落としたものたちへの復讐をはじめる…言わずと知れた「巌窟王」こと「モンテ・クリスト伯」の物語、といっても現在どれほどの子どもたちがこの内容を知っているのでしょう。
 私の本棚には、この物語を初めて読んだ新潮社版・世界文学全集「モンテ・クリスト伯」がそのまま収まっています。1961年発行とあるので父が買ったものですが、いま手にとっても「次はどうなるんだろう」と読み急いだ頃の胸のときめきがよみがえってきます。
 監獄でファリア司祭と出会う場面。ダンテスが「神様、絶望のうちに(私を)お死なせにならないでください」と声を上げると、地面の下から「誰だ、神の名と絶望のことばをともに口にするものは?」と声がして司祭が登場します。(実は、山内義雄さん訳の新潮社版では「主と絶望とを同時に口にしているのは誰だ?」となっていて、私はこちらの方が好きなのではありますが)かっこいいですねえ。
 また、誠実で名誉を重んじるモレル家の危機にあって、これを救うときのダンテス(ここではイギリスの銀行家に扮している)のひそかなつぶやき。「気高い心よ、幸福ならんことを。汝のした、またこれからなすであろう善に、神の祝福のあらんことを。」モンテ・クリスト伯はやることなすこと、とにかくかっこいいのです。
 私はこの物語で、ヨーロッパの多彩な文化や風俗にとどまらず、気の利いた言い回しや、誠実に生きる人々への祝福といった「道徳」のようなものまで学んだような気がします。もちろん、教養や道徳の書として読んだわけでは全くなく、まるで長編の西洋活劇を見るかのようにしてページをめくったのでした。
岩波少年文庫でも上中下の3巻と、ちょっと長い読み物ですが、読み出したらやめられないおもしろさがありますので、きっと本を読む喜びを見つけるきっかけとなることでしょう。中学生以上の子どもたちにおすすめです。(岩波少年文庫・刊)

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