『雨ふる本屋』 日向理恵子 作 童心社刊

小学校何年生のころだったのでしょう、雨降りの日、誰もいない学校の廊下からぼおーっと校庭を眺めていたことを覚えています。廊下は板張りで、湿った木の匂い。とても静かな中で、どこかでカサコソっと生き物の気配がしていましたっけ。

古いつくりの街の図書館は、ただでさえ静かなのに、雨の日に入ってみると、いっそうしーんとしていますね。

本棚の奥に入っていくと、ひょっとしたらどこか別の世界につながっている秘密の扉があるかもしれません。

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この物語の主人公・ルウ子は、雨宿りにかけ込んだ市立図書館の中で、妹のサラをびっくりさせてやろうと道で見つけたカタツムリに案内されて、秘密の通路から「雨ふる本屋」に入ります。

 

雨降りの日の本屋さんではなくて、本屋さんの中に雨がふっているのです。

そこには絶滅したはずのドードー鳥の店主・フルホンさんや、助手の妖精使いの舞々子さんと妖精たち。でもフルホンさんは大きな問題をかかえていました。

雨ふる本屋さんの本は、人間に忘れられた物語、「おしまい」の文字が書いてもらえずに迷子になったお話、つまり物語の種を集めて、雨を使って本に仕上げていくのが仕事ですが、近ごろなぜかうまく本に育たない種ばかりなのだというのです。

フルホンさんに依頼されて、ルウ子は、夢の力を使いながら「ほっぽり森」に調査に入ることに。幸せの青い鳥の化身・ホシ丸くんも一緒です。物語の種が育つ森には、夢を食べるバクが、それに、自分の大作を書き上げる前に死んだ作家の幽霊が、森を荒していました。

犯人を突き止めたルウ子たちはついに事件を解決。ルウ子も青い自分の物語の種を見つけます。その種は、妹サラが生まれたときにサラのために書いておきながら、忘れていたルウ子自身の物語の種でした。

憎らしいと思っていたはずの、サラのよろこぶ顔を思い浮かべながらルウ子は、不思議な「雨ふる本屋」を後にします。

 

この本の作者は、まだ若い30代の日向理恵子さん。本や物語を大切に、楽しい冒険の旅に出るルウ子ちゃんに共感する子どもたちから高い評価を受けたようです。

新人ながら、たちまち版を重ね、『雨ふる本屋の雨ふらし』『雨ふる本屋とうずまき天気』と一躍人気シリーズになってしまいました。

子どもたちが本来宿している「物語・ファンタジーの楽しさ」を掘り起こし、本の楽しさすばらしさを、もっともっと広げていっていただきたいとこれからのご活躍に大いに期待しています。

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