毎日新聞の「金言」という欄で西川恵氏が、イタリアのジャーナリストが「日本の社会は落ち着いている。…殺伐とした空気の欧州から来るとホッとする」と言ったと記事で紹介しています。
最近のヨーロッパでは、高い失業率や賃金カット、社会保障の縮小、人種差別や暴動の発生などなど、社会不安が拡大していると言われます。記者は、これを非理性的な大衆主義だと、鬱憤をため込む大衆の方を批判していますが、それは正しいのだろうか。
経済における新自由主義・市場原理主義がはびこり、徹底した民営化と規制緩和、福祉・医療などの社会支出の削減を進めた国が、一様に貧富の格差拡大や社会的緊張の増大に悩まされていることを考えれば、不安を抱える大衆は、被害者ではあっても、加害者として断罪されるいわれはないのではないでしょうか。
日本でも、小泉・安倍政権以来の市場原理主義が、労働規制を緩和して大量のワーキングプアを生み出し、社会保障を縮小したことで社会不安が一挙に増大し、このことで国民がついに自民党政権を見限る歴史的政権交代へつながったのだと思います。私自身、4年前の市長選挙や自治体議員選挙の時に、多くの人々が殺伐としてきた社会への不安を抱え「医療や年金を何とかしてほしい。福祉を充実するべきだ」と切実な口調で訴えられていたことが強く印象に残っています。
日本は政権交代が実現したことによって、辛くもこうした事態を招かないですんでいるのであって、だからこそ、そんなに殺伐な社会ではないと感じられるのではないか。
だとすれば、今後の政治目標は、市場原理主義的「改革」に退行するのではなく、社会保障や教育などへの財政支出を確保しつつ、経済成長をめざしながら、不安のない社会にむかうビジョンを構築し、実践することなのではないか。そのために、党派を超えて英知を結集する時なのではないでしょうか。