この欄でスウェーデンの児童文学作品を取り上げたのはリンドグレーンの「さすらいの孤児ラスムス」についづいて2作目ですが、そのリンドグレーンを記念する賞を受賞したのがこの作品。
思春期の少女を主人公にした作品ですが、取り巻く環境は甘いものではなく、また単純なものでもありません。
時は1940年。ナチスドイツは破竹の勢いでヨーロッパ中を席巻し、周辺諸国を次々に占領していきます。ユダヤ人への迫害も日に日に強まっていき、作品の主人公12歳のステフィと妹のネッリは故郷オーストリア・ウイーンの父母の元を離れて見知らぬスウェーデンにやってきます。からくも中立を保っていたスウェーデン政府が、迫害を受けるユダヤ人の子どものみに限って計500人を受け入れることを認めたからでした。
二人がやってきたのはスウェーデン第二の都市イェーテボリ近郊の漁業の島。1年後、成績優秀なステフィはイェーテボリ在住の医者の家族の好意によって中学校に進学することになりました。ひそかに恋心を抱くスヴェンとも再会し、学校では新しい友達もできるのですが、ユダヤ人への偏見、宗教観の違い、政治的激動などを背景としてステフィの苦悩はつづきます。
学校でカンニングの濡れ衣を着せられ、スヴェンの他人への恋にも打ちのめされたステフィは、島の養父母の下にもどります。しかし、そこにステフィの良き理解者である担任のビヨルク先生と級友マイが現れて、ステフィへの疑いが晴れたことを伝えます。ステフィは希望をとりもどし学校へと戻るのですが…。
級友との友情や養父母の深い愛情、家族愛そして思春期の恋。スヴェンとの思い出の地でもある睡蓮の池をはじめイェーテボリのたたずまいなどの風景描写とあわせて、この作品は日本の若い読者のみなさんにも興味深く、一気に読み進んでいくことのできるものとなっています。
作者は、日本の読者のみなさんへというメッセージで「戦争と人種差別は人間を、とりわけ幼い子どもたちを襲い、傷つける、邪悪でおそろしいものです」と述べています。
邪悪な戦争と人種差別が出現して、なぜ多くの人間が翻弄されていったのか。作者は作品の中でステフィの担任ビヨルク先生に「そうね、たぶん」「私たちはみんなよく目がみえていないのよ。」と言わせています。
この一連の「ステフィとネッリの物語」は、ポーランドのコルチャック賞を受賞しています。
ちょっと大人に向かう中学生高校生にぜひ読んでほしいシリーズです。
菱木晃子訳 新宿書房・刊