職業外伝

12otona.jpg子どものころ、私たちが遊んでいた路地にもよく「紙芝居のおじさん」がやってきました。お話が始まるまえに自転車の荷台の小さな木箱からおじさんがとりだす水飴をみんなで買うのが、子どもたちの楽しい決まりでした。木枠の中の絵を引き抜きながら声色を使ってセリフを語る紙芝居のおじさんの口調は、今も私の記憶に残っています。
 そんな紙芝居のおじさんは、数年の内に何人かが変わりましたが、ある時、なじみのおじさんの一人がいつのまにか自転車屋さんになっていたので驚きました。
 昭和30年代前半まで全国で1万人を数えたとされる街頭紙芝居師も、テレビの普及などで激減。現在では、最後の一人となってしまったようです。
 本書はその街頭紙芝居師をはじめ飴細工師・幇間・見世物師など、滅び行く日本の伝統的職業についている人々の姿をルポしたものです。
 著者は昭和33年生まれですが「街頭紙芝居を見たことがない」そうなのです。「ボクにしてみれば歯噛みするほど悔しい痛恨事だった。」(著者)
子どものころ、紙芝居と親しんできた私はまだ幸せだったのでしょうね。
 祭りの露店で商うテキ屋にしても、賭け将棋を生業とする真剣師にしても、この本で取り上げられた職業は、これからの若者の職業としてはとうていお勧めできませんね。
けれども、滅び行く運命であるとはしても「天職」を得てそれを全うしようとする彼らの生き様は、若い人にも大いに参考になると思います。
 寄席をこよなく愛する「不良中年」の著者らしく、落語や能、三味線音楽など、日本の伝統文化についての知識も盛り込まれて楽しい本となっています。

■出版社:ポプラ社

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